先日、何年も音信不通だった友人からメールがあり、「金策のため奔走中。協力願う」とだけありました。
「金策」とあって、なんだか穏やかならぬ予感もするし、奔走の意味も正直よくわからず、まだ返信していません。
“奔走”の意味をしっかり調べてから、返信したいと思います!
奔走の意味や読み方は?
まずは、辞書を使って“奔走”について調べたいと思います。
【奔走】各辞書の意味(※古典的な使い方は小さい字にしてあります)
ほん‐そう【奔走】
1 忙しく走り回ること。物事が順調に運ぶようにあちこちかけまわって努力すること。
2 もてなすこと。饗応。馳走。
3 大切にすること。かわいがること。
(小学館『デジタル大辞泉』より)
ほん‐そ【奔▽走】「ほんそう(奔走)」の音変化。
(小学館『デジタル大辞泉』より)
ほんそう【奔走】
① 物事がうまくいくように、あちこちかけまわること。
② ごちそうしもてなすこと。
③ 大切にすること。かわいがること。
(三省堂『大辞林 第三版』より)
ほんそう【奔走】
・走り回って、事がうまくいくように努力すること。
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
ほんそう【奔走】
・〔その事がうまくいくように〕関係方面を頼み回る(回って世話をやく)こと。
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より)
“奔走”は〔ほんそう〕と読むのですね!
また、〔ほんそ〕という読み方の記載がある辞書もありましたが、例文などから、現在は一般的ではない読み方だと判断できます。
そして、“奔走”は現代では「(何かを成功させるため)あちこちかけまわって努力する事」「物事がうまくいくように、あちこちと忙しくかけまわる」という意味で主に使われるのですね!
それでは、自分なりに意味などをざっくりまとめてみます!
<読み方>ほんそう
<意味>
①物事が首尾よく運ぶように、あちこちかけまわること。
②もてなすこと
③大切にすること
※②③は古典での使い方。現在は①の意味で用いられる
奔走の正しい使い方の例文は?
次に、“奔走”の現在の使われ方を見ていきます。
まずは辞書内の例文を確認してみたいと思います!
【各辞書の例文】
「募金集めに奔走する」
(小学館『デジタル大辞泉』より)
「国事に-する」
(三省堂『大辞林 第三版』/角川学芸出版『類語国語辞典』より)
「知人の-で就職できた」
(三省堂『大辞林 第三版』)
「就職に―する」
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
「先輩の―で就職できた」
(角川学芸出版『類語国語辞典』より)
このような辞書の例文から、“奔走”は【就職活動】や【国事】に対して使うのが代表的なのだと考えることができます!
続いて、実際の文章の中ではどのように使われるのかも調べてみましょう!
【実際に文中で用いられている例】
・本当のところは資金集めに奔走していたのさ。 しかし、やっと見通しが立った!
(赤川次郎『黒い森の記憶』より)
・そのまちはたまたま、死んだ王の後継者さがしに奔走している最中だったのだ。
(荒俣宏『別世界通信』より)
・金策に奔走しているという噂うわさだったが、別にへこたれている様子はない。
(梶山季之『女の警察』より)
・雨の中を奔走して、比較的に綺麗な一軒のあき家を見つけて来てくれた。
(岡本綺堂『綺堂むかし語り』より)
・二十歳を越えたばかりの女性が、金集めに奔走する姿など、あまり美しくない。
(内田康夫『斎王の葬列』より)
・兄たちが受験をするときコネクションを求めてあちこち奔走していた。
(阿刀田高『空想列車(上)』より)
上にあげたもの以外にも例文をさまざま見てみましたが、“奔走”は色々なものに対して使われていました。ただ、一つの傾向として、【金策】に対して使われることが他のものに比べて多いように感じました!
・・・そういえば、友人からのメールにも「金策」とありましたっけ。
奔走の類義語は?
さて、“奔走”と似た表現にはどんなものがあるのでしょうか?
角川学芸出版『類語国語辞典』を見てみると、“奔走”と同じグループには、以下のような表現があげられています。
・駆けずり回る・・・忙しくあちこちに行って力を尽くす。奔走する。
・立ち回る・・・忙しく方々を歩き回って骨を折る。
・馳駆(ちく)・・・他人のために駆け回って尽力すること。奔走すること。
・奔命(ほんめい)・・・目的のために忙しく働くこと。忙しく奔走すること。
(角川学芸出版『類語国語辞典』より)
また、以上の他にも、四字熟語などの
・櫛風沐雨(しっぷうもくう)・・・風雨の中で苦労をし、奔走すること。
・手足を擂り粉木(すりこぎ)にする・・・手足をまめに動かして奔走する。
角川学芸出版『類語国語辞典』より)
といった表現も紹介されていました!
東奔西走の意味や使い方は?
上で紹介した、【東奔西走】ですが、よく見ると、【東西】+【奔走】でできている熟語ですね。もう少し詳しく【東奔西走】について調べてみたいと思います!
【東奔西走】辞書での意味
<読み>とうほんせいそう
<意味>あちこち忙しく駆け回ること。南船北馬。
(三省堂『大辞林 第三版』より)
<例文>
「会社設立のために-する」
(三省堂『大辞林 第三版』より)
「資金集めに東奔西走する」
(小学館『デジタル大辞泉』より)
「仕方なく親は発熱した子供を抱えて、医者探しに東奔西走することになる。」
(原田宗典『家族それはヘンテコなもの』より)
「その金を返すために東奔西走したのならともかく」
(三浦綾子『ちいろば先生物語』より)
このように見てみると、“奔走”と【東奔西走】はほぼ同じように使われていることがわかりますね!
奔走の語源は?
続いて、“奔走”の由来について調べてみたいと思います!
【走】の字は調べるまでもなく「走る」という意味ですが、【奔】はなかなか使うことのない感じですよね。【奔】にはどのような意味があるのでしょうか?
〔なりたち〕
もと、人が手をふって走るさまと、多くの足から(中略)なり、さかんに走る意を表した。
〔意味〕
①はしる
②はやい
(角川書店『角川新字源』より抜粋)
とあります。
つまり、“奔走”は「はしる」という意味の漢字を重ねて作られた表現です!
このように、同じ意味の異なる漢字を重ねた表現には、以前意味調べをした【謳歌】や【咄嗟】【慇懃】などもあります。
奔走の英語表記は?
次に、“奔走”の英語表現を確認してみたいと思います。
研究社 『新和英中辞典』では、【running about】【efforts】【activity】といった訳が記載されています。意味はそれぞれ
【running about】・・・走り回ること
【efforts】・・・努力
【activity】・・・活動
となります。
これらの意味をみてみると、“奔走”は日本語ならではのニュアンスを持った表現で、英語表現ではそのままズバリ言い表すことは難しいようです!
まとめ
それでは最後に今回のポイントをまとめてみたいと思います!
・“奔走”は「ほんそう」と読む。
・主に「物事が首尾よく運ぶように、あちこちかけまわること」の意味で使われる。
・【奔】も【走る】も「はしる」という意味。“奔走”は同じ意味の漢字を重ねた熟語。
・【東奔西走】も“奔走”と同じように使われる。
さてさて、冒頭の友人には「協力できません」とお返事することになりそうです。
今回はここまでです!
最後までお読みいただきありがとうございました!