先日、「この前の飲み会での失態を忘れられない・・・」と友人から連絡がありました。この失態、という言葉ちらちらと目にすることはありますが、自分から使ったことはありません。
どんな意味なのか確認して、自分でも使えるようにしていきたいと思います!
失態の意味は?
まずは、辞書で“失態”を確認してみましょう!
【失態】―各辞書の記載は?―
- しったい【失態・失体】
人の笑いものになるような失敗をすること。体面を失うこと。
(三省堂『大辞林 第三版』より) - しっ‐たい【失態・失体】
体面を失うこと。面目をそこなうこと。また、人に見られて恥ずかしいような失敗をすること。やりそこない。しくじり。
(小学館『精選版 日本国語大辞典』より) - しっ‐たい【失態/失体】
失敗して体面を失うこと。また、面目を損なうようなしくじり。
(小学館『デジタル大辞泉』より) - しったい【失態】
他人の物笑いの的になるようなぶざまな行動。「失体」とも書く。
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より) - 失態・失体【しったい】
人に笑われるような失敗。面目をなくすようなへま。
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
“失態”は「失体」と表記してもいいのですね!
ちなみに、複数の辞書の解説に出て生きた「体面」は〔人が世間に対してもっている誇りや面目。世間体。〕(小学館『デジタル大辞泉』より)という意味だそうです。
各辞書に記載されていることを簡単にまとめると・・・
【失態】の意味と読み方のまとめ
<読み方>しったい
<意味>まわりから笑われるような失敗。プライドが傷つくようなへま。
<別表記>失体
失態の正しい使い方の例文は?
それでは、続いて各辞書の“失態”の例文を確認していきたいと思います。
【“失態”の使い方-各辞書の例文-】
- 「 -を演ずる」
(三省堂『大辞林 第三版』/小学館『デジタル大辞泉』/ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より) - 「大―を演じる」
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より)
私が調べたすべての辞書で、〔失態を演じる〕という例文が用いられていました!
この表現がずば抜けて代表的なのだと感じました。
では、辞書を離れ、実際の小説ではどのように使われているのかも確認してみたいと思います。
【“失態の使い方-実際に文中で用いられている例-】
- 第一に一年に一度か二度の早朝の起床のため、羽田でとんだ失態をやった。
(北杜夫『マンボウぼうえんきょう』より) - このトカラ村の岩屋を管理する闘蛇衆にとっては大変な失態であった。
(上橋菜穂子『獣の奏者 Ⅲ 探求編』より) - 刑事は自分の失態を隠したがるから大事には至らないだろう。
(奥田英朗『ララピポ』より) - 自分のつくったドラマを見て、子どもの前で泣くなどという失態を犯してしまった。
(林真理子『ロストワールド』より) - 旧将軍の失敗を踏まえての刀集め、順調に集まったはずの刀をそれぞれ一本ずつ、裏切りの際に奪うばわれるという失態を犯した。
(西尾維新『刀語 09 第九話 王刀・鋸』より) - もとはと言えば身から出たサビで、このところ失態続きなのである。
(赤川次郎『一日だけの殺し屋』より)
このように、実際の使われ方は、辞書の例文よりも多様であることが確認できました!
失態の類語は?失敗との違いは?
では、“失態”と似た表現にはどのようなものがあるのでしょうか。
角川学芸出版『類語国語辞典』では“失態”は〔①失敗:物事をやり損うこと〕と〔②ふまじめ〕の二つのグループに分類されています。
このグループにはそれぞれ他に
①〔失敗〕グループ
- 失敗る(しくじる)
- 為損じる(しそんじる)
- 失策(しっさく)・・・取り返しのつかない失敗をすること
- 粗相(そそう)・・・不注意からの過ち
- へま・・・軽率な失敗。誤り
②〔ふまじめ〕グループ
- 不始末・・・不品行な行い。後始末に困るような不都合なこと
- 不身持ち(ふみもち)・・・
- 不行跡(ふぎょうせき)・・・人に迷惑をかけたり行いがよくないこと
といった表現が紹介されていました!
では、“失態”と【失敗】を比較するとどのような違いがあるのでしょうか?
【失敗】の意味を改めて確認してみると・・・
・物事をやりそこなうこと。方法や目的を誤って良い結果が得られないこと。しくじること。
(小学館『デジタル大辞泉』より)
と解説があります。
ここで、初めに確認した“失態”の意味をもう一度見返すと
・まわりから笑われるような失敗。プライドが傷つくようなへま。
とあるので、“失態”は失敗の中でも「笑われるような」「はずかしい」「プライドが傷つく」ものに限定した表現だと考えられますね。
失態を「演じる」「さらす」「おかす」で間違いは?
さて、“失態”という言葉と伴って使われる表現として思いつくものには、「おかす」「さらす」「演じる」といったものがありますよね。
これらの表現、どれも正しいのでしょうか?
まず、〔演じる〕については上で見たように、各辞書に例文として載っていたので、正しい使い方だと言い切れます!
では、〔さらす〕に関してはどうでしょうか。
コロケーション辞典(言葉と言葉の結びつきを示した辞典)である三省堂『てにをは辞典』を見てみると、“失態”と結びつくことばとしてあげられているのは
<失態を>
- 演じる
- かばいあう
- さらす
- 救う
- 笑う
- 重く受け止める
という表現で、この中に〔さらす〕があることから、正しい表現だと考えられますね。
ただ、一方で実際の文章作品をおさめた青空文庫 約12,000作品を対象にした調査である「日本語ロコケーション辞典」では〔さらす〕の用例はありませんでした。
また、世界最大の用例検索エンジンである「用例.jp」でも<失態をさらす><失態を晒す><失態を曝す>という用例はいずれもヒットがありません。
このことから、“失態”を〔さらす〕は辞書的には正しい使い方だが、一般的とは言いにくい表現と考えるのが無難かなと考えられます。
つづけて、〔おかす〕という表現をみてみましょう。
インターネットで見てみると、「失態を〔おかす〕は、失敗をおかすとの混同からうまれた誤用」という説もあるようです。
実際、〔さらす〕で確認した『てにをは辞典』では〔おかす〕の記載はありませんでした。
しかし一方で、初めの方の例文の項目でもあげたように、林真理子や西尾維新といった、著名な作家の作品の中に<失態を犯す>という使用例があります。
- 自分のつくったドラマを見て、子どもの前で泣くなどという失態を犯してしまった。
(林真理子『ロストワールド』より) - 旧将軍の失敗を踏まえての刀集め、順調に集まったはずの刀をそれぞれ一本ずつ、裏切りの際に奪うばわれるという失態を犯した。
(西尾維新『刀語 09 第九話 王刀・鋸』より) - ・まあ、そんなことはどうでもいいことだ、万が一、失態を犯している可能性がゼロではないので、私もあまり強気にはでられない。
(伊岡瞬『いつか、虹の向こうへ』より)
このことから、“失態”を〔おかす(犯す)〕は辞書で正しいと確認はできないが、文芸作品にみられる表現(完全に誤用とすることは難しい)と考えられることができますね。
ただし、中には日本語の使い方に厳しい方も中にはいますので、自分からあえて使わない方が無難かなと個人的には思います。
- 失態を〔演じる〕は正しい表現
- 失態を〔さらす〕は辞書的には正しい表現。ただし、使用例は少ないので使う際は注意。
- 失態を〔おかす〕は辞書的には正しいとは言えない。ただし、著名作品内に使用例があるため完全に誤用とすることは難しい。自分からは使わない方がベター。
失態の英語表記は?
それでは次に、“失態”の英語表現を確認してみましょう!
研究社『新和英中辞典』では
〈失敗〉
- a mistake
- a blunder
- an error
〈不面目〉
- (a) disgrace
- (an) ignominy
〈失態を演じる〉
- commit a blunder
といった表現が紹介されていました!
【a mistake】や【an error】は馴染みのある表現ですよね。
【a blunder】は「(ばかな)失敗をやる、しくじる、まごつく、つまずく、(…に)うっかり入り込む」といった意味のある言葉です。
まとめ
最後に、今回のポイントをまとめたいと思います!
- “失態”の読み方は「しったい」で【失体】とも書く
- “失態”は「まわりから笑われるような失敗。プライドが傷つくようなへま。」という意味
- “失態”は【失敗】とは異なり、失敗の中でも「笑われるような」「はずかしい」「プライドが傷つく」ものに限定した表現
- 「“失態”を演じる」は”失態“の代表的な使われ方。
▶失態を〔さらす〕は辞書的には正しい表現。ただし、使用例は少ないので使う際は注意。
▶失態を〔おかす〕は辞書的には正しいとは言えない。ただし、完全に誤用とは言い切れない。自分からは使わない方がベター。
それでは最後までお読みいただきありがとうございました!