「僕はゲーム音楽のことなら人後に落ちないよ!日本人にだってね!」
と先日、日本語ペラペラのフランス人の友人から言われました。
彼が使った「人後に落ちない」という言葉、聞いていて、ふんふんとうなずけるものの、自分で使ったことは…まだない気がします。
これは困った!日本人として私も彼に負けてられない!!と思い立ち、かっこいい日本語を使えるようになるべく、まずはちゃんとその意味を調べてみることにしました。
人後に落ちないの意味は?
さっそく辞書でその意味と読み方を調べてみました。
人後に落ちない(じんごにおちない)
意味 : 他人より劣らない。他人にひけをとらない。(三省堂大辞林より引用)
“人後”とはその文字のとおり、人の後ろ、または下位であることを意味するそうです。
なので、“人後”+“落ちない”=誰かの後ろに落ちない、自分の前に誰かがいることはない。
つまり“人後に落ちない”は、他の人が自分よりも前にいない=自分が1番(優れている)ということです。
かけっこのような競争の場面をイメージすると分かりやすいと思います。
1位の人の前には、もちろん誰もいないですよね。
「かけっこでは“人後に落ちない”」と言うと、それはかけっこでは自分が1位、足の速さでは他の人に負けない、引けを取らないことを意味します。
人後に落ちないの由来は?
”人後に落ちない”という言葉は、中国の唐の時代に活躍した詩人、李白(りはく)の『夜郎に流され辛判官に贈る』という詩の中から生まれたと言われています。
「気岸遙凌豪士前 風流肯落他人後(気岸遥かに凌ぐ豪士の前、風流あえて落ちんや他人の後に)」
この詩を簡単に説明すると、「(私は)心意気は勇ましい豪士をもはるかに超え、風流をたしなむことに関しても人の後ろには落ちないのに」と、当時、中国の都に住めるほどの詩の才能を持っていた李白が、冤罪によって地方に飛ばされてしまった時の、その身を追われた辛さを詠った詩だそうです。
このことから“人後に落ちない”は、他人と比べて、自身の優れている点を指し示す言葉、特に誰よりも優れているという気持ちを込めて使われるようになったそうです。
人後に落ちないの正しい使い方の例文や類語は?
人後に落ちないの例文を調べてみました。
- 「正義感の強さでは人後に落ちない」
- 「ワインの知識については人後に落ちないつもりだ」
これらの例文のように、人後に落ちないは自分の中で誰にも引けを取らない、自信のある事柄について話すときに使います。
他にも同じ意味の言葉として、「右に出る者はいない」もあります。
この言葉も、“人後に落ちない”と同じく、自分の前に人はいない、自分に肩を並べる者はいないことを示すことから、誰にも引けを取らない、自分が1番を意味します。
「正義感の強さでは右に出る者はいない」、「ワインの知識については右に出る者はいないつもりだ」と言い換えしても意味が通じますね。
ただし、“人後に落ちない”を使うときに、注意したい点は“(何かが)1番の人”を表現する時に使う、ということです。
「北海道はじゃがいもの生産量において、人後に落ちない」
という文章を読むと、なんとなくであれば意味は通じてしまいますが、そもそも“人後”とあるように、この言葉は人と人との優劣において使われている言葉です。
物や事柄についての1番を表現したい時に、“人後に落ちない”は使わない方が無難でしょう。
(日本語には擬人法という、人でないものを人に例える方法もありますが…)
上記の例文のような時は、「北海道はじゃがいもの生産量において、右に出る“県”はない」や、シンプルに、「北海道はじゃがいもの生産量において、日本一である」と言った方が分かりやすいですね!
他にも“人後に落ちない”に似た言葉で、「自負している」や「双璧をなす」、「同等」など、優れているさまを表現する言葉もあります。
が、その微妙な違いに注意してしっかり使い分けをしましょう。
“人後に落ちない”はその分野において他に、より優れた人がいないさま、つまり1番を遠回しに示唆しているのに対し、「自負している」は自分が1番かどうかは重要ではなく、自分が優秀であることを謙虚に言うときの言葉です。
また「双璧をなす」や「同等」などは、大前提として比較する優れた何かがすでにあり、それと同じくらい優れているという時に使うので、誰にも引けを取らないという意味の“人後に落ちない”とはそもそも表現したいことがずれています。
人が優れているさまを現す言葉はたくさんありますが、“人後に落ちない”には「人の後ろに落ちない=自分が1番、先頭である」という意味を含んでいることを忘れずに、使う必要があるみたいですね。
人後に落ちないの英語表記は?
ちなみに、“人後に落ちない”を英語で言うと何というのか調べてみました。
- 類語be second to none (2番目ではない)
- be as good as anyone (他の誰よりも良い)
“人後に落ちない”も、そもそも複数の単語でできているので、英語に訳すのも一言では難しいようです。
それぞれの英文からイメージすると、1つ目の be second to none (2番目ではない)は、“人後に落ちない”が持つ、人の後ろには落ちない、二番手ではないというニュアンスをよく表していますね。
2つ目の be as good as anyone も、他の誰よりも良いという意味から、こちらも人と人を比べて言う時の“人後に落ちない”のニュアンスとよく似ています。
まとめ
最後に調べたことを簡単にまとめてみます。
- “人後に落ちない”は、他人に引けを取らない、誰よりも優れていることを表現したい時に使う
- 中国の詩人、李白の詩から生まれた言葉
- 原則、人と人を比べて優れている様子を表すときに使う
フランス人の友人と私の間(狭い範囲でですが…)において、私の日本語の知識は“人後に落ちない”!と言い切れるよう、これからも正しい日本語の知識を深めていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!