先日、海外サッカーの試合を見ていたら「このままでは勝利はおぼつかない!」という実況がありました。
自分自身、「足もとがおぼつかない」なんて言ったりしますが、「勝利がおぼつかない」という表現は耳馴染みがなく、ちょっと不思議な表現だなと感じました。
そこで今回は、“おぼつかない”について調べてみたいと思います!
おぼつかないの意味は?
はじめに、“おぼつかない”の意味を確認してみたいと思います!
まずは、各辞書を見ていきます。
ビックリするほどたくさんの意味がありましたので、辞書の記載を紹介した後、自分なりに意味をまとめてみたいと思います!
【おぼつかない】各辞書の意味
(例文などから古典的な使い方をする際の意味と判断したものは、字を小さくしてあります。)
〔一〕
① 確かでなくはっきりしない。ぼんやりしている。
② うまく行く見込みがない。疑わしい。だめだろう。
③ しっかりしていない。心もとない。頼りない。
〔二〕
① ぼうっとして、はっきりしない。
② 気がかりだ。心配だ。
③ 心細い。ものさびしい。
④ 長らく対面しない。無沙汰している。
⑤ 待ち遠しい。早く会いたい。
⑥ 不審だ。いぶかしい。
(三省堂『大辞林 第三版』)
1 物事の成り行きが疑わしい。うまくいきそうもない。
2 はっきりしない。あやふやである。
3 しっかりせず、頼りない。心もとない。
4 はっきり見えないで、ぼんやりとしている。
5 ようすがはっきりせず、不安である。気がかりだ。
6 不審である。おかしい。
7 疎遠で相手のようすがわからない。
8 待ち遠しい。もどかしい。
(小学館『デジタル大辞泉』)
【1】はっきりせず、頼りない。心もとない。
【2】うたがわしい。不確かである。
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版 』)
・好ましくない条件があって(状況に置かれて)、先行き不安を感じさせる様子だ。
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』)
このように、“おぼつかない”は想像以上に色々な意味を持っていることばでとても驚きました!
ちなみに、“おぼつかない”は漢字にすると「覚束ない」と書くそうです。
では、自分りに意味をまとめてみたいと思います!
思い切って意味をザックリとまとめると・・
<現代的な使い方での意味>
・ぼんやりとしていて、頼りない
→(その結果)不安である、疑わしい
<古典的な使い方での意味>
・ぼうっとして、はっきりしない。
→心配だ。/心細い。/長らく会っていない。⇒待ち遠しい。早く会いたい。/不審だ。
サッカー実況で言っていた「勝利はおぼつかない」というのは「勝利できるか疑わしい」という意味だったのですね!
おぼつかないの正しい使い方の例文は?
では、“おぼつかない”は具体的にはどのように使われるのでしょうか?
ここでは現在の使われ方に絞ってみていきたいと思います。
【各辞書の例文】
- 「私の-記憶で言うと」「成功はとても-」「 -足取りの老人」
(三省堂『大辞林 第三版』) - 「今の成績では合格は―」「―記憶をたどる」「足もとが―」
(小学館『デジタル大辞泉』) - 「足もとが―」「優勝は―」
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版 』) - 「成功は到底-」「酒に酔って足下が-」
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』)
このように、「足もと」と“おぼつかない”は一緒に使われることが多い表現なのですね!
上の例文にはありませんでしたが、「おぼつかない足取り」といった表現も目にすることがありますよね!
おぼつかないの類語は?
次に、“おぼつかない”と似た表現を調べてみたいと思います。
- 頼りない
- 心許無い(こころもとない)
- 疑わしい
(以上3例 角川学芸出版『類語国語辞典』/情報通信研究機構「日本語WordNet」より) - 不確か
- 不確実
(情報通信研究機構「日本語WordNet」より)
類語としては以上の表現などが調べた中にありました。
また、類語として紹介されている中で、ちょっと見慣れない表現として
- 茫茫たる(ぼうぼうたる)…ぼんやりかすんで、はっきりしないさま。広々としたようす。
- 朧(おぼろ)…ぼんやりかすんでいるさま。不確かなさま。
- 朧朧(おぼろおぼろ)…ぼうっとかすんでいるさま。ぼんやり。
(以上3例 情報通信研究機構「日本語WordNet」より/意味参考:小学館『デジタル大辞泉』)
といったものもありました!
おぼつかないの語源は?
さて、“おぼつかない”は「覚束無い」と漢字で表記しますが、漢字からその成り立ちや意味を想像するのが難しいですよね。
“おぼつかない”はどのようにできてきた表現なのか、少し調べてみたいと思います!
三省堂『大辞林 第三版』には、
〔古くは「おほつかなし」と清音。「ない」は接尾語。「おほ」は、はっきりしていないさまを表し、(中略)「覚束無い」は当て字〕
と解説がありました。
「覚束無い」は当て字だったんですね!
そして、この解説によると「ない」は接尾語とありますので「無い」という否定の意味を表しているのではありません。
小学館『デジタル大辞泉』によると接尾語の「ない」は
〔[接尾]形容詞・形容動詞の語幹など性質・状態を表す語に付いて形容詞をつくり、その意味を強調する。「あどけ―・い」「せわし―・い」「切―・い」「はした―・い」〕
とありますので、“おぼつかない”の「ない」は前のことばを強調する役割だと考えることができます。そのことから、“おぼつかない”を「おぼつかぬ」と言い換えることは、不適切だと言えます。
また、意味合いの近さから「朧(おぼろ)」とも成り立ちになのかな、と想像はしています
成り立ちのポイントをまとめると・・・
- 「覚束無い」は当て字
- おぼ(古くは「おほ」)に「はっきりしていないさま」の意味がある
- 「ない」は強調の意味の接尾語で否定の意味ではない
→「おぼつかぬ」とは言い換えられない
となります。
おぼつかないの英語表記は?
では最後に、“おぼつかない”の英語での表現を確認してみたいと思います。
辞書で調べると
・uncertain…確信が持てない。不確かな。
・doubtful…疑いを抱いて。はっきりしない。あやふやな。
・undependable…頼みにならない。信頼できない。
(研究社『新和英中辞典』/情報通信研究機構「日本語WordNet」より)
などといった表現がありました。
また、日本語の例文ででてきた「おぼつかない足取り」は英語では
(情報通信研究機構「日本語WordNet」より)
と表現されるそうですよ!
それでは最後に今回調べたことのポイントをまとめてみます!
・“おぼつかない”は現在は、「ぼんやりとしていて頼りない、疑わしい」といった意味で使われる。
・漢字で「覚束無い」と書くのは当て字。
・“おぼつかない”の「ない」は強調の役割。否定ではないので注意。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!