この前、友達と旅行の相談をしながら見ていたパンプレットに「日本海の幸に舌鼓!」という宣伝文句がありました。
自分は恥ずかしながら、“舌鼓”の読み方がわからなかったのですが、その場にいた友人は「したつづみ」派と「したづつみ」派の両方が・・・
どちらが正解なのか気になったので、今回は“舌鼓”について調べました!
舌鼓の意味や読み方は?
では早速、“舌鼓”の意味と読み方を確認していきたいと思います!
【舌鼓】
・〔「したづつみ」とも〕 おいしい物を味わったときに鳴らす舌の音。(三省堂『大辞林 第三版』)
・《「したづつみ」とも》
1 うまいものを飲食したときに舌を鳴らす音。
2 不満げに舌を鳴らす音。舌打ち。(小学館『デジタル大辞泉』)
・飲食物があまりにもうまくて、舌を鳴らすこと。=したづつみ。(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』)
・おいしがって、舌を鳴らすこと。〔口頭語では「したづつみ」とも〕(三省堂『新明解国語辞典 第七版』)
と、このように舌鼓の読み方は「したつづみ」「したづつみ」どちらも間違いではないんですね!これはちょっと意外でした!
ただし、そもそもは「したつづみ」であったのが、徐々に「したづつみ」も許容されるようになってきた、という歴史もおさえておくと、目上の方とお話しする際など、よりよいでしょう!
世代によっては、したつづみのみが正しい言葉使いだった人もいるからです。
NHKの『ことばのハンドブック第2版』では、第一の読みとして「したつづみ」、第二の読みとして「したづつみ」をあげています。
また、意味は第一に、「あまりのおいしさに舌を鳴らす」ことです!
そしてさらに第二の意味に「不満で舌打ちをする」という、第一の意味と反対のネガティブな意味があるのは驚きです。
今までに、そういう意味で“舌鼓”をつかった表現があるとは知らずにいましたので、日本語の奥深さを感じれました!
舌鼓の語源は?
では、“舌鼓”はどういった語源を持つ表現なのでしょうか?
「舌」と「鼓」に分解して考えた時、「舌」は分かりますが、「鼓(つづみ)」ってあまり馴染みがないですよね。
普段見かけるのは「太鼓」という漢字で使われるときくらいでしょうか。
「鼓」とはそもそも、能楽や歌舞伎などで使われる日本古来の小ぶりの太鼓で、左手で抱えて右手で打ち音を出すものになります。(↓イラスト参照)
個人的には、「よぉぉぉ~っ」「ぽん!」というイメージです。
ちなみに、“咄嗟”の意味調べの時に知ったことですが、舌打ちは、日本人からするとあまりいい印象のあるボディーランゲージではありませんが、漢字が生まれた中国では伝統的に、相手を賞賛するときや、いい気分の時に舌打ちするという文化もあるそうなんです。
実際、白水社 『中国語辞典』の【咂嘴(ピンインzā//zuǐ)】の解説には、
「(称賛・羨望・驚き・悔しさ・困惑などで)舌を打つ,舌を鳴らす.」
という一文があります。
このことからも、
お料理に対して称賛の意味合いで舌打ちをする
→舌で鼓を打つ
→舌鼓
という表現が出来上がっていったと考えることができそうです!
舌鼓を打つの意味は?
さて“舌鼓”といえば「打つ」という表現と一緒に使われますよね。
「舌鼓を打つ」を調べると、
【舌鼓を打つ】
・1 あまりのおいしさに舌を鳴らす。舌鼓を鳴らす。
2 不満げに舌打ちをする。(小学館『デジタル大辞泉』)
・① おいしい物を味わった満足感を舌を鳴らして表す。
② 不愉快な気持ちを、舌を鳴らして表す。(三省堂『大辞林第三版』)
と、「舌鼓を打つ」とはおいしいものを飲食して、「舌鼓を鳴らす」ことであることがわかりました。
ではなぜ、「鳴らす」と言わずに「打つ」と表現するのでしょうか?
「舌打ち」という表現があるように、そもそも舌は「打つ」と表現するものである、という理由と共に「鼓」を演奏することを「打つ」ともいう2つの理由があると思われます。
実際に『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』では鼓は「一般には,正座した奏者が左手で調べを握って楽器を右肩に載せ,右手の指先で皮面を打って奏する。」と紹介されています。「鼓」の演奏は「たたく」「鳴らす」ではなく「打つ」と表現されるものなのですね。
舌鼓の正しい使い方の例文は?
では、具体的には“舌鼓”はどのように使えばいいのでしょうか?
例文を調べてみたいと思います!
- 「山海の珍味に―を打つ」 (小学館『デジタル大辞泉』より)
- 「彼女の手料理に舌鼓を打っていればいいだけの生活は、二か月ほどで終わった。」(東野圭吾『白夜行』より)
- 「テーブルに次々運び込まれる料理の皿を前に、すでにハルヒは舌鼓を打っていた。」(谷川流『涼宮ハルヒ特別編 「ハルヒ劇場 act1」』より)
- 「初がつおに舌鼓したつづみを打ったのは、煮たのでも、焼いたのでもない。 それは刺身と決まっている。」(北大路魯山人『いなせな縞の初鰹』より)
このように、見つけられた例文は、「打つ」と組み合わせた表現ばかりでした。
また、不満を表す「舌打ち」の意味合いでの“舌鼓”の例文としては
- 「私は―・って引きかえして」(宇野浩二『苦の世界』より)
- 「時には気を焦(いら)って、聞えよがしに―など鳴らして」(二葉亭四迷『浮雲』より)
といったものがありました。
どちらも最近の作品ではなく、この使い方は、やや古風で文語的なものになります。
舌鼓の類語は?
「とてもおいしいことに感動する」という意味の“舌鼓”の類語としては
舌鼓の類語
- ほおが落ちる/ほっぺたが落ちる
- 舌鼓を打つ
- 賞味
- 味わう
(以上 日本語シソーラス『連想類語辞典』より)
などがあります。どれも、比較的なじみのある表現ですね!
また、「不満や不愉快さから舌を鳴らす」という意味合いでは
舌打ち
があげられます。
舌鼓の英語表記は?
舌鼓の英語表現を調べてみました。
- 【smack one’s lips】
- 【smack appreciative lips】
- 【enjoy】 (以上 研究社 『新英和中辞典』より)
【smack one’s lips】という表現は、自分は初めて知ったのですが、【smack】には「味」「風味」という意味があるそうです!
また、単純に【enjoy】でもいいんですね。
まとめ
“舌鼓”について調べる中で、
・口を日本古来の楽器にたとえる日本語表現の豊かさ
・世の中の状況に合わせて、多様な読み方を許容していく柔軟さ
を特に感じることができ、大変勉強になりました。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!