今、宮部みゆきさんの『クロスファイア』を読んでいるのですが、その中に、尋ねても、「あとで教えてあげるから」と軽くいなされるだけである。
という一文がありました。
“いなす”という言葉、まったく見かけないわけではないですが、自分ではなかなか使わないですよね・・・
そこで今回は“いなす”について調べてみたいと思います!
いなすの意味は?
まずは、辞書で“いなす”を確認したいと思います。
※古典的な使われ方と思われるものは、小さな字で表記してあります。
【いなす】辞書にはどんなことが書いてある?
いなす【往なす・去なす】
① 相撲で、相手が突進してくるのを片手で相手の肩口を横に突きながら急にかわして、相手の態勢を崩す。
② 相手の追及・攻撃などをはぐらかすようにあしらう。
③ 去らせる。追い払う。
④ 離縁する。実家に帰す。
⑤ ばかにする。悪口を言う。
(三省堂『大辞林 第三版』より)
いな・す【往・去】
① 去るようにさせる。帰らせる。
(イ) 立ち去らせる。追っぱらう。
(ロ) 実家に返す。離縁する。
② ばかにする。悪口を言う。けなす。
③ 台なしにする。ふいにする。
④ 相撲のわざで、攻勢をかわして、相手の体勢を崩す。転じて、攻撃や追及を軽くあしらう。
⑤ 和服の襟(えり)を首の後ろの方へ押し下げる。襟の合わせ目あたりを押し上げるような動作をする。えりをぬく。
(小学館『日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典』より)
いな・す【▽往なす/▽去なす】
1 《2から》攻撃を簡単にあしらう。また、自分に向けられた追及を言葉巧みにかわす。
2 相撲で、急に体をかわして、攻撃に出ている相手の体勢を崩す。
3 和服の襟を後方に押し下げる。襟をぬく。
4 去らせる。行かせる。
5 実家に帰す。離縁する。
6 ばかにする。悪口を言う。
(小学館『デジタル大辞泉』より)
▽往なす・▽去なす【いな・す】
【1】よそへ行かせる。帰らせる。
【2】相撲で、相手の突っ込みをかわす。転じて、攻撃のほこ先をかわす。
(ベネッセコーポレーショ『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
往なす【いな・す】
〔もと、「行かせる・帰らせる」の意〕(すもうで)攻勢をかわして、相手の態勢を崩す。相手の鋭い攻撃や追及を軽くかわす意にも用いられる。「去なす」とも書く。
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より)
古典的な意味合いも含め、沢山の項目で解説している辞書は、調べるのが少し大変でした。しかし一方でとてもシンプルに解説している辞書もあり驚きました!
では、上で調べた辞書の内容をもとに、ざっくりと自分なりに現在使われている、“いなす”の意味などをまとめてみたいと思います!
【いなす】の意味と漢字のまとめ
<書き方>【往なす】もしくは【去なす】
<意味>
・現在では、「相手の鋭い攻撃や追及をあしらう・かわす」という意味で使われることが多い。
・相撲で、突進してくる相手から身をかわして、相手の態勢を崩させる技。
いなすの語源は?
では、続いて辞書からわかる、“いなす”の語源について考えていたいと思います!
“いなす”は漢字で書くと、【往なす】【去なす】となることが辞書からわかりました。
また、三省堂『新明解国語辞典 第七版』の解説から、かつては“いなす”は「行かせる・帰らせる」の意味であったことも分かります。
辞書に載っていたのは、どれも「行かせる・帰らせる」から派生した意味だと推測できますね!
また、「相撲で、相手の突っ込みをかわす。転じて、攻撃のほこ先をかわす。」(ベネッセコーポレーショ『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)とあるように、現在の「相手の鋭い攻撃や追及をあしらう・かわす」という意味は、そもそもは相撲の技を元にした表現なのですね!
ちなみに、相撲では “いなす”は
【往なす(いなす)】
・相手力士が出てくるところを、自分の右か左に身をかわすこと。
⇒逃げるのではなく、相手の体に軽く手を突くような感じで触れます
(西日本実業団相撲連盟「相撲用語解説」より)
【いなす】
相手の攻撃をうまくかわすこと。
(伊勢ヶ濱部屋「相撲用語」より)
といった意味で使われるのだそうです。
いなすの正しい使い方の例文は?
では、“いなす”はどのように使えばいいのでしょうか?
ここでは現在使われている意味に絞って、各辞書の例文を見ていきます!
【“いなす”の使い方-各辞書の例文-】
- 「 - ・されてよろける」
「質問を適当に-・す」
(三省堂『大辞林 第三版』より) - 「鋭い質問を軽く―・す」
「―・されて土俵に手をつく」
(小学館『デジタル大辞泉』より) - 「質問をかるく―」
(ベネッセコーポレーショ『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より) - 「突いて出てくるのを軽く―」
「機嫌をとって―」
(角川学芸出版『類語国語辞典』より)
辞書に記載された例文を見てみると、“いなす”は、【質問】に対して使うのが代表的な用いられ方だということが一目瞭然ですね!
また、【軽く】【適当に】といった表現と共に用いられていることが多いことから、“いなす”は力を込めて反撃する・一所懸命やり返すというよりも、サラッとかわすようなニュアンスがあることも分かります。
いなすの類語は?あしらうとの違いは?
続いて、“いなす”の類語を確認してみましょう!
角川学芸出版『類語国語辞典』では “いなす”を【〔転向〕進む方向を変えること】、グループに分類し、類語を記載しています。
類語には・・・
- 背ける(そむける)
- 転じる
- 躱す(かわす)
などがあげられています。
さて、“いなす”と似たように感じる表現に【あしらう】がありますね。“いなす”と【あしらう】はどのように違うのでしょうか?
簡単に【あしらう】の意味を確認してみましょう。
あしら・う〔あしらふ〕
- 1 応対する。応答する。
「好みの違う客を巧みに―・う」 - 2 相手を軽んじた扱いをする。みくびって適当に応対する。
「鼻で―・う」 - 3 素材や色などをうまく取り合わせる。配合する。
「帽子に花を―・う」「松に梅を―・う」
(小学館『デジタル大辞泉』より)
これを見ると、“いなす”はまともに受け合わないのに対して、【あしらう】は一応対応はするが適当、という違いがあると考えられますね!
いなすの英語表記は?
それでは次に、“いなす”の英語表現を確認してみましょう!
研究社『新和英中辞典』では、“いなす”の訳として
- parry 《a question》
- dodge 《an attack》
- handle 《one’s opponent》
があげられています。各英単語の意味は
- 【parry】・・・①〈打撃・武器などを〉受け流す,はずす
②〈質問などを〉回避する,はぐらかす - 【dodge】・・・さっと避ける、ひらりと身をかわす、巧みに回避する、ごまかす
- 【handle】・・・ハンドル、肩書、扱う
などと、紹介されていました!
まとめ
それでは最後に、今回のポイントをまとめたいと思います!
- “いなす”は漢字にすると「往なす」「去なす」
- “いなす”は現在は
①「相手の鋭い攻撃や追及をあしらう・かわす」という意味
②相撲で、突進してくる相手から身をかわして、相手の態勢を崩させる技
といった意味で使われる。 - “いなす”には〔さらっとかわす〕〔軽くはぐらかす〕というニュアンスがある
それでは最後までお読みいただきありがとうございました!