先日、推理小説を読んでいたら、「その推理は正鵠を射ているに違いない。」という文章が出てきました。
“正鵠”という表現、なかなか見ることがありませんよね?意味もなんだか難しそうです・・・
そこで今回は、“正鵠”について調べてみたいと思います!
正鵠の意味や読み方は?
まずは、“正鵠”の意味と読み方を確認してみたいと思います。
いくつかの辞書を見ていきましょう!
【正鵠】―各辞書の記載―
- 〔せいこく(「せいこう」は慣用読み)〕【正鵠】
① 弓の的。的のまんなかにある黒点。くろぼし。
② 物事のかんじんな部分。要点。急所。また、めあて。目的。
③ (形動) 物事の核心をついていること。また、そのさま。
(小学館『精選版 日本国語大辞典』より) - 〔せいこく《慣用読みで「せいこう」とも》〕【正鵠】
1 弓の的の中心にある黒点。
2 物事の急所・要点。
(小学館『デジタル大辞泉』より) - 〔せいこく(「せいこう」は慣用読み)〕【正鵠】
① 的の中央の黒点。くろぼし。
② ねらいどころ。急所。要点。
(三省堂『大辞林 第三版』より) - 〔せいこく(「せいこう」は慣用読み)〕【正鵠】
〔「鵠」は弓の的の中央の黒点の意〕物事のいちばん大切な点。急所。要点。
(ベネッセコーポレーショ『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
“正鵠”は「せいこく」または「せいこう」と読むのですね!
また、読みは「こく」ですが、【鵠】の字の左側は【告】ではなく、上は【牛】なので要注意です!
それでは、自分なりに意味をまとめたいと思います!
【正鵠】の意味と読み方のまとめ
<読み方>せいこく/せいこう
<意味>①的の真ん中の部分のこと
②物事の要点・核心・急所
正鵠の例文は?
続いて、“正鵠”の使い方の例を見ていきたいとおもいます。
具体的にはどのように使えばいいのでしょうか?
実際に文章の中で使われている例を確認しましょう!
【実際に文中で用いられている例】
- あの犯罪の性質や、あの女や、角刈りと燕尾服の男や、それ等に関する園村の意見は正鵠を得て居るだろうか。(谷崎潤一郎『潤一郎犯罪小説集』より)
- わたくしの推測はあまり正鵠をはづれてはゐなかつたらしい。(森鴎外『伊沢蘭軒』より)
- 最後に彼が正鵠を射る推理を開陳したとしても、それまでに私が何がはずれなのかを示している功績を忘れて欲しくないものだ。(有栖川有栖『朱色の研究』より)
- この観察がおそらく正鵠を射ているだろう。(種村季弘『食物漫遊記』より)
- アファッドの言葉は正鵠を得ていると、彼は思う。(水野良『新ロードス島戦記1 闇の森の魔獣』より)
- 今回の函館の大火はいかにして成立し得たか、これについていくらかでも正鵠に近い考察をするためには今のところ信ずべき資料があまりに僅少である。(寺田寅彦『函館の大火について』より)
- 大石良雄が昼行燈と綽名された家老だったとは有名な巷説だが、或る程度、正鵠をえているように思われる。(五味康祐『薄桜記』より)
これらの例文を見てみると、“正鵠”は「得る」や「射る」という表現と使われるのが一般的だと考えることができますね。
正鵠を得ると射るとの違いは?
それでは、「正鵠を得る」と「正鵠を射る」とはどのように違いがあるのでしょうか?
辞書を見てみると、
【正鵠(せいこく)を射る】
物事の急所を正確につく。正鵠を得る。
(小学館『デジタル大辞泉』より)
せいこくをいる【正鵠を射る】
物事の急所・要点を正しくおさえる。正鵠を得る。正鵠を失わず。
(三省堂『大辞林 第三版』より)
と、このような記載があり、「正鵠を射る」と「正鵠を得る」は同じ意味で用いられることが分かります。
「正鵠を得る」という表現における「得る」は「手に入れる」という意味ではなく、「とらえる」という意味で使われていると考えることができますね。
これは、「要領を得る」や最近、誤用ではないと訂正された「的を得る」と同じ使われ方ですね。
正鵠の類語は?
それでは、“正鵠”に似た表現にはどのようなものがあるのでしょうか?
角川学芸出版『類語国語辞典』では“正鵠”は【要点:物事の大切な箇所】の意味をもつ言葉のグループに分類されています。
このグループには他に、「要点」「ポイント」「論点」「要(かなめ)」「勘所(かんどころ)」「図星(ずぼし)」「肯綮(こうけい)」といった言葉も含まれます。
ちなみに、それぞれ、
- 勘所・・・物事をうまくする上で外せない要点
- 図星・・・目当ての大事な所。的の中心の黒点。
- 肯綮・・・物事の要点・急所。「肯」は骨付き肉、「綮」は骨と肉の接続する所の意。
といった意味があります。
こうしてみると【図星】は特に“正鵠”と似た表現なのかなと感じました。
正鵠の語源は?
最後に“正鵠”の語源を確認してみたいと思います!
小学館『精選版 日本国語大辞典』を見てみると、
【「正」は鳥、正(鴟鳥)を描いた革の的。「鵠」は鳥、鵠(くぐい)を描いた革の的。】
と語源が解説されています。
「鴟鳥」とはタカやフクロウ、トビなどの鳥を表しています。
つまり、「鳥の絵が描かれた、革製の的」という意味がそもそもの“正鵠”の意味だったと考えられますね!
まとめ
それでは最後に、ポイントをまとめます!
- “正鵠”は「せいこく」もしくは「せいこう」と読む
- 意味は、
①的の真ん中の部分のこと
②物事の要点・核心・急所 - 「正鵠を射る」と「正鵠を得る」は同じ意味
今回はこれでおしまいです。
それでは最後までお読みいただきありがとうございました!