いま、綿矢りささんの『蹴りたい背中』を読んでいるのですが、その中に
「腕についている転んだ名残の砂は、日に灼けた腕自体よりよっぽど白い」
という一文がありました。
自分は“名残”は「別れ」の場面で使うイメージが強かったので、「転んだ名残」という表現は少し意外でした。
そこで今回は“名残”について改めて調べてみたいと思います!
名残の意味や読み方は?
では早速、辞書で“名残”の意味と読みを確認したいと思います!
【名残】―各辞書の記載は?―
※例文などから、現在は一般的に用いられないと思われる意味は小さく表記しています。
なごり【名残】
《「余波(なごり)」から》
1 ある事柄が過ぎ去ったあとに、なおその気配や影響が残っていること。また、その気配や影響。余波(よは)。
2 人と別れるときに思い切れない気持ちが残ること。また、その気持ち。
3 物事の最後。終わり。
4 亡くなった人をしのぶよすがとなるもの。忘れ形見。子孫。
5 病後のからだに残る影響。
6 残り。残余。
7 「名残の折」「名残の茶」などの略。
(小学館『デジタル大辞泉』より)
なごり【名残】
〔「なごり(余波)」と同源〕
① 物事が過ぎ去ったあとになお残る、それを思い起こさせる気配やしるし。余韻や余情。また、影響。
② 別れたあとに面影などが残って、なお心引かれること。また、別れの際の心残り。
③ 物事の最後。終わり。
④ 去った人や故人を思い出すよすがとなるものや事。故人の形見や子孫。
⑤ 病後などの身体に残る影響。
⑥ 残り。残余。
⑦ 「名残の折」の略。
(三省堂『大辞林 第三版』より)
名残【なごり】
【1】物事が過ぎ去ったあとに、なおも残っている気配・気分・影響。
【2】人との別れを惜しむこと。また、その気持ち。
【3】連歌・俳諧(はいかい)で、懐紙の最後の一折。
【4】〔古〕子孫。
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
なごり【名残】
①そのことが終わった後に、またそれを思わせる物が残っていること。
②別れようとして、そのまま別れるに忍びない気持。
③別れたあとも、その人の残した強い印象が忘れられないこと。
④連歌の懐紙で最後の折の称。第四折。
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より)
辞書の内容は少しずつ、独自の意味が載ってはいますが、大きくとらえるとどれも似たような内容になっていますね。
それでは、ざっくりと自分なりに、現在“名残”が使われる際の意味などをまとめてみたいと思います!
【名残】の意味と読み方のまとめ
<読み方>なごり
<意味>
- ある事柄が過ぎ去ったあとに、なおその気配・気分・影響が残っていること。また、その気配・気分・影響。
- 別れたあとに面影などが残って、なお心引かれること。
- 物事の最後。終わり。
名残惜しいの意味は?
続いて、”名残”が使われる代表的な表現である、〔名残惜しい〕の意味も確認していきたいと思います!
【名残惜しい】―各辞書の記載は?―
- なごり‐おし・い〔‐をしい〕【名残惜しい】
・別れがつらく、心残りのするさま。
「親友との別れはことさら―・い」
(小学館『デジタル大辞泉』より) - なごりおしい【名残惜しい】
・別れを惜しむ気持ちが強く、別れるのがつらい。心残りが多くて別れにくい。
「 - ・いが、これでお別れしましょう」
(三省堂『大辞林 第三版』より) - 名残惜しい【なごりおし・い】
・去って行くもの、別れるものに心が引かれて離れるのがつらい。
「桜の散るのが―」
「もうお別れとは―ことです」
(ネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
このようにどの辞書でも〔名残惜しい〕は「別れるものに心残りがあり、別れがつらい」という意味と解説されていました。
また、例文を見てみると、人だけでなく、「桜」などとの別れにも使えるのは、日本語の情緒が感じられるなと思いました!
名残の正しい使い方の例文は?
それでは、本題の“名残”に戻って、“名残”は具体的にはどのように使えばよいのか辞書の例文を見てみましょう!
【“名残”の使い方-各辞書の例文-】
“名残”の意味のまとめ、①②③の項目ごとに見ていきましょう。
①〔ある事柄が過ぎ去ったあとに、なおその気配・気分・影響が残っていること。また、その気配・気分・影響。〕
・「台風の名残の高波」
・「古都の名残をとどめる」
(小学館『デジタル大辞泉』より)
・「熱戦の-を残すグラウンド」
・「昔の-をとどめる古城」
(三省堂『大辞林 第三版』より)
・「夏の-」
(三省堂『大辞林 第三版』・ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
・「明治時代の―をとどめている」
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
・「台風の―をとどめる」
・「―なく(=すっかり)晴れた青空」
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より)
②〔別れたあとに面影などが残って、なお心引かれること。〕
・「尽きない名残」
(小学館『デジタル大辞泉』より)
・「 -を惜しむ」
・「 -が尽きない」
(三省堂『大辞林 第三版』より)
・「―の宴」
・「―は尽きない」
(ベネッセコーポレーション『ベネッセ国語辞典 電子特別編集版』より)
・「いつまでも―が尽きない」
・「―の(=別れを惜しむ。最後の)会」
(三省堂『新明解国語辞典 第七版』より)
③〔物事の最後。終わり。〕
・「この世の名残」
(小学館『デジタル大辞泉』・三省堂『大辞林 第三版』より)
・「 -の夜」
(三省堂『大辞林 第三版』より)
このように、各辞書の例文をみてみると、共通して記載される例文もあり、共に使われる言葉も重なっていました。それぞれで多く使われる言葉は
- ①では「台風」「空」などの気象に関する言葉、「明治時代」「古都」など昔を表す言葉
- ②では「尽きない」
- ③では「名残」
でした。
また、③の意味で使われているのか①の意味で使われているのかはぱっと見では判断が難しいように感じました。”名残“を見つけた際は、前後の流れなども注意深く読み進める必要があります。
②にでてきた「惜しい」は上の「名残惜しい」と同様の意味ですね。このように、くっつけて一つの表現としても、また二つの言葉の組み合わせとしても使える表現なのは面白いですね。
名残の類義語は?
続いて、“名残”の類語を角川学芸出版『類語国語辞典』で確認してみましょう!
辞書の中では“名残”は【残存(なくならないでのこっていること)】【影響(あるものの働きが他に及ぶこと)】の二つのグループに属しています。それぞれのグループには他に
〔「残存」のグループ〕
残る
残存
残留・・・そこに残りとどまること。後に残ること。
余る
〔「影響」のグループ〕
影響
響く・・・影響する。影響を与える。
煽り(あおり)・・・余勢や余波が及ぼす影響。
余波・・・周囲や後に及ぼす影響。
といった言葉が紹介されていました。
【余波】は意味調べでみた辞書の中にも記載が(読みは違いますが)ありましたね。
“名残”を類語で言い換えるような場面はあまり日常ではないかもしれませんが、“名残”を【残存】と【影響】のグループと大きくとらえることで、意味の解釈もしやすくなりますね!
名残の由来は?
さて、意味調べをしていた時に、【余波】と書いて「なごり」と読ませる記載がありましたね。この【余波】について三省堂『新明解国語辞典 第七版』に詳しく説明がありましたので、紹介したいと思います。
まず、ひらがな「なごり」の項には
「なごり」
①風がやんでも、まだ静まらない波。
②波が引いた後に磯や浜に残る海水や海藻など。
<表記>古くは【余波】と書いた
という説明があり、続く漢字表記の“名残”の項には〔「なごり」と同源〕と書いてあります。
つまり、“名残”は【余波(なごり)】という言葉からできた表現だったのですね!
名残の英語表記は?
それでは次に、“名残”の英語表現を「研究社 新和英中辞典」で確認してみましょう!
【名残りの】
- remaining
- lingering
【名残りをとどめない】
- leave no trace
【名残りを惜しむ】
- be reluctant
【名残り惜しげに】
- reluctantly
このような表現を見つけることができました。
上にでてきたreluctant/reluctantlyは「いやいやながら」「しぶしぶ」という意味の言葉です。
まとめ
それでは今回のポイントのまとめです!
- “名残”の読み方は「なごり」
- “名残”には
①ある事柄が過ぎ去ったあとに、なおその気配・気分・影響が残っていること。また、その気配・気分・影響。
②別れたあとに面影などが残って、なお心引かれること。
③物事の最後。終わり。
といった意味がある - “名残”は【余波(なごり)】という言葉からできた表現だ
それでは最後までお読みいただきありがとうございました!